脳の危機察知システムが分かってきました

投稿者: | 2016年7月16日

 

あれ?おかしいぞ?という感覚

最初は順調でも、次第にうまくいかなくなって、方向転換する。

そんなこと、結構ありますよね。

 

心理的な状態の変化としては、

 よしよし。いい調子だ。
   
   
 あれ? まあ、たまにはいいか。
   
   
 おいおい。これはおかしいぞ。
   
   
 他の方法にしよう!

のような感じでしょうか。

 

何だかおかしいと察知して、

その感覚が次第に強くなっていって、

それがあるレベルを越えると、方法を変えます。

 

仕事がうまくいっている人は、おかしいことを早く察知して、躊躇なく方向転換できていますね。

逆に、察知するのが遅かったり、察知したとしても方向転換が遅れたりすると、手を付けられないくらい事態が悪化して、どうにもこうにも行かなくなります。

 

その2つのプロセス

・おかしいことを察知する

・その感覚が次第に強くなる

は何となく感じておられると思いますが、脳ではどのような情報処理がされているのでしょうか?

 

脳の危機察知システムを探る実験

最近、「おかしいことを察知する」のと「その感覚が次第に強くなる」のに関わる脳領域が実際にあることが実験で分かりました。

筑波大学、関西学院大学、京都大学の共同研究でサルを使った実験です。

 

サルに二者択一の選択をさせて、片方を選ぶと50%の確率でジュースがもらえ、もう片方を選ぶともらえません。

で、しばらく経つと、ジュースがもらえるのともらえない選択肢を入れ替えます。

サルは、さっきまでジュースをもらえていたのにもらえなくなったことに気付いて、選択肢を変えます。

そして、この課題に取り組んでいる間に、サルの脳の活動をユニットレコーディング法で調べました。

ユニットレコーディング法というのは、頭蓋骨を開けて、脳を覆う硬膜の上から細い針電極を刺すことで、個々のニューロンの活動を詳細に記録できる手法です。

 

実験の結果、

・おかしいことを察知する →→→ 「手綱核」が強く活動する

・その感覚が次第に強くなる →→→ 「前帯状皮質」が強く活動する

ということが分かりました。

手綱核(たづなかく、Habenula)は脳の奥深くにある、かなり小さな領域ということもあって、あまり知られていない領域でしたが、近年、調べられ始めた領域です。

2つ目の図で、青で囲ってある領域です。

一方、前帯状皮質は、おでこの奥で、前頭前野より深くて、左右の脳をつなぐ脳梁のすぐ前にある脳領域です。

前帯状皮質(Wikipedia)

なお、Wikiの上図は向かって右が前側です。

 

危機察知システムを麻痺させると大変なことに

ところで、ヒトに限らず、動物には学習能力があります。

最初、危険に感じて構えても、実際には危険でないことが分かれば、そのうち危険に感じること自体もなくなります。

脳の反応が経験によって変わるのですね。

可塑性とも言い、素晴らしい機能です。

 

ただ、この可塑性は良いことばかりではありません。

今回の話で、脳の手綱核がおかしいと感じて、前帯状皮質がその経験を累積してアラームを発したとしても、具体的な対策を講じないとどうなるでしょうか?

危機感からアラームは発せられても、危険ではないということになって、前帯状皮質の活動も強まらなくなったり、手綱核の反応も鈍くなりかねません。

確かに、方向転換は経済的、労力的、心理的に負担となり、スイッチングコストとも呼ばれます。

しかし、それに負けたり、疎かにしていると、脳にそもそも備わっている察知能力や危機感を累積してアラームを発する機能も衰えてしまいます。

おかしいと強く思ったら、面倒がらずに早め早めの方向転換をして、脳が本来持っている危機察知システムを麻痺させないようにすることが大事なのです。

 

【原論文】

Kawai T, et al. (2015)
“Roles of the lateral habenula and anterior cingulate cortex in negative outcome
monitoring and behavioral adjustment in nonhuman primates”
Neuron 88(4): 792-804.
DOI: http://dx.doi.org/10.1016/j.neuron.2015.09.030

 

脳科学でビジネスライフを快適に!

では、また!

 

(了)

 

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