「ネコにもアルツハイマー病」がニュースになるワケ

投稿者: | 2015年12月12日

 

アルツハイマー病はヒトだけ?

「高齢猫、人間に類似=アルツハイマー病―東大など」

先日(12/11)、ニュースで報道されたこのニュースを、ちょっと補足しておきましょう。

その題字だけ読むと、

「へぇ、ネコもアルツハイマーになるのか。まあ、動物だから年取ったらそうなるよねぇ」

と思ってしまうかもしれません。

それだけのことなら、ニュース性は弱いです。

ニュースになるのは、それなりの理由があります。

 

認知症は社会問題にもなっており、世界的にも研究が進められているのですが、まだまだ道半ば。

認知症にもいろいろな型があり、アルツハイマー病はその中の一つです。

アルツハイマー病の研究が進みにくい背景に、動物実験ができないことがあります。

ヒトだけだと実験で出来ることがかなり制限されるので、解明に時間がかかってしまいます。

では、どうして動物実験ができないのか。

それは、ヒトで見られるアルツハイマー病が、他の動物では見られなかったからです。

つまり、ヒト以外の動物であるネコにアルツハイマー病があるだけでビッグニュースなのです。

しかし、今回のニュースはそこがポイントなのではありません。

 

ネコでアルツハイマー病の特徴の一部が見付かっていた(同グループによる2012年の論文)

実は、同じ研究グループが2012年に、ネコの脳にヒトのアルツハイマー病で見られる病変を発見し、論文発表しています。

Chambers JK, et al. (2012)
Neurofibrillary tangles and the deposition of a beta amyloid peptide with a novel N-terminal epitope in the brains of wild Tsushima leopard cats
PLoS ONE 7(10): e46452.
doi:10.1371/journal.pone.0046452

 

ちなみに、ヒトのアルツハイマー病で見られる脳病変の3大特徴は以下のとおりです。

1)脳の萎縮(神経細胞の大量脱落による)

2)老人斑(アミロイドβ蛋白の凝集蓄積による)

3)神経原線維変化(タウ蛋白の凝集による)

上記の論文では、14頭のツシマヤマネコと、7頭のイリオモテヤマネコの脳組織を観察しています。

 

そして、6頭のツシマヤマネコに、老人斑のもとのアミロイドβ蛋白の沈着が見られたそうです。

ただ、ヒトのアルツハイマー病で見られる、老人斑までは見られなかったとのこと。

さらに、その6頭の中の5頭では、タウ蛋白の凝集による神経原線維変化がみられています。

つまり、3大特徴のうち、2)の兆候と、3)がネコで見付かったのです。

これまで、アルツハイマー病はヒト以外の動物にはないと考えられていたので、大ニュースです。

動物実験ができるとなると研究も進みますので。

 

ネコで「脳の萎縮」も見付かったのが、2015年の論文

今回のニュースになった同グループによる、2015年の論文は以下の通りです。

上記の論文と同じく、こちらの論文もオープンアクセスで、どなたでも読めるようです。

Chambers JK, et al. (2015)
The domestic cat as a natural animal model of Alzheimer’s disease
Acta Neuropathologica Communications20153:78
DOI: 10.1186/s40478-015-0258-3

 

まず、論文のタイトルを日本語に訳しておきましょう。

The domestic cat as a natural animal model of Alzheimer’s disease

「飼いネコはアルツハイマー病の自然動物モデルである」

「自然動物モデル」というのは、遺伝子改変して作ったモデル動物ではないという意味です。

2012年の論文で、ネコにアルツハイマー病の特徴の一部が見られると分かっていたわけですが、
2015年の論文では新たに何が分かったのでしょうか。

 

産まれてすぐに亡くなったネコから22歳で亡くなったまで、25頭のネコの脳組織を調べたところ、次の2点が分かりました。

・8歳頃から脳にアミロイドβ蛋白が沈着しはじめる

・14歳頃からタウ蛋白が蓄積しはじめる

そして、タウ蛋白が凝集した神経細胞では、神経原線維変化も確認されました。

また、タウ蛋白にも種類があるのですが、ヒトのアルツハイマー病と同じ型だったそうです。

そしてそして!

神経原線維変化を起こしたネコでは、記憶に関わる海馬の神経細胞が脱落していたのです。

2012年の論文では、アルツハイマー病の3大特徴の一つ

1)脳の萎縮(神経細胞の大量脱落による)

が見られていませんでした。

 

今回の研究で、ネコで、アルツハイマー病の3大特徴が全てあることが分かったのです。

つまり、ヒトと同じように発症するので、ネコがアルツハイマー病の動物モデルだというワケです。

さらに詳しく調べると、ネコのアミロイドβ蛋白のアミノ酸配列は、他の動物と異なっていたとか。

その変種のアミロイドβ蛋白が、ヒトより寿命の短いネコでアルツハイマー病を起こしているだろうと著者らは述べています。

 

実は、すでにチーターで、、

ヒトと同様のアルツハイマー病がネコで見られたということなのですが、ヒト以外の動物でネコが最初ではありません。

実は、これら2編の論文の著者でもある Chambers 博士らが、動物園で飼育されていたチーターにアルツハイマー病の3大特徴が見られたと2012年に報告しています。

Serizawa S, et al. (2012)
Beta Amyloid Deposition and Neurofibrillary Tangles Spontaneously Occur in the Brains of Captive Cheetahs (Acinonyx jubatus)
Veterinary Pathology 49(2): 304-312.
doi: 10.1177/0300985811410719

 

22頭をチーターの脳組織を調べて、13頭にアミロイドβ蛋白の蓄積がみられ、
さらにそのうち、10頭にタウ蛋白の凝集がみられ、
さらにさらにそのうち、2頭に脳の萎縮がみられたのです。

つまり、すでにチーターでアルツハイマー病が見付かっていたのですね。

そう言う意味では、今回調べた飼いネコがヒト以外で初めてというわけではありませんが、
飼いネコの方が頭数も多いので、動物モデルに適していてニュース性が高いワケです。

ただ、これで研究がバンバン進む!とは簡単には行かないでしょう。

と言いますのも、ネコは歴史的にも脳科学に貢献してきてくれましたが、近年は実験動物として
使いにくくなっているからです。

今回の実験も亡くなったネコだから調べられたのだと思います。

いずれにせよ、ヒトと同じアルツハイマー病がネコに見付かったことは、その解明への大きな一歩であることに違いはありません。

 

脳科学でビジネスライフを快適に!

では、また!

 

(了)

 

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