「幽体離脱」のススメ

投稿者: | 2016年5月23日

 

幽体離脱は実験で確認されている?

幽体離脱のことは、学生の頃に読んだ立花隆氏の『臨死体験』で知りました。

立花隆『臨死体験』

幽体とは、肉体と霊体の間とされるもので、自身の「幽体」が身体から「離脱」して、自身の姿を少し高い視点から見る感覚を幽体離脱といいます。

『臨死体験』では、手術を受ける自分の姿を客観的な視点でに見た記憶があるというような体験がいくつも紹介されていました。

科学的な信憑性は疑いながらも、興味深く読み進めた記憶があります。

実は、この幽体離脱、完全にオカルトとも限らないようなのです。

と言いますのも、「わたし」をどう認識するかという大きなテーマの一つとして、脳科学的にもちゃんと扱われているのですね。

Nature誌の短報に、Blankeらの症例報告が掲載されています。

Blanke O, et al. (2002)
“Neuropsychology: Stimulating illusory own-body perception”
Nature 419: 269-270.
doi:10.1038/419269a

Blankeらは、43歳のてんかん患者への治療の過程で、脳に電気刺激を加えると、幽体離脱が起こることを発見しました。

幽体離脱が誘発されたのは、頭頂葉で側頭葉や後頭葉に近い、角回(angular gylus)という脳領域。

脳への電気刺激により、自分がベッドの上で横になっているのが見えたそうです。

ただ、見えたのは体全体ではなく、脚や胴体だけだったとか。

また、角回を電気刺激することで、腕や脚が短くなったり、顔に向かって来たりするようにも見えたそうです。

角回は、頭頂葉の後部で、側頭葉に近い領域で、言語の意味的な理解、聴覚、視覚、体性感覚(皮膚感覚)の情報も集まり、複数の感覚の統合的な処理にも関わると考えられています。

角回の位置はこちらをご参考ください。
角回(Wikipedia)

この幽体離脱の感覚は、自分を客観視することと関係があるとの指摘もあります。

どういうことでしょうか?

 

思ったように体を動かすのは意外と難しい

武井壮の「オトナの学校」という動画をご存知でしょうか?

武井壮「オトナの学校」(動画)

幼少期の武井氏は、母親がおらず、父親も外に別の家庭をもってしまい、兄と二人だけの生活で、炊事洗濯は自分たちがするというのが当たり前という環境で育ったそうです。

大学時代に短距離走から陸上競技を始め、途中で十種競技に転向します。

そして、競技歴2年半で日本選手権優勝。

彼のスポーツ・トレーニング理論は、個々の競技に取り組む以前に、まず、思った通りに体を動かせるようになるべき、というもの。

タモリの番組で披露した例が割と知られています。

 

実際に、ちょっとやってみましょうか。

一人なら大きな鏡の前に立っていいただき、もし誰か見てくれる人がいれば、その人に手伝ってもらいましょう。

まず、目を閉じて両腕を真横にあげてください。

そして、それがちゃんと真横になっているかどうか確認してみましょう。

すると、真横よりも少し上だったり、下だったりします。

真横になるように調整した上で、もう一度、目を閉じて腕を真横にあげてみます。

今度は、体が真横の位置を覚えていてちゃんと真横にあがるようになります。

武井氏が言いたいのは、自分の体は思ったように動いていないので、特定の競技に取り組む前に、自分の体を思ったように動かせるよう、いろいろな関節で訓練しましょうということ。

ついでながら、脳科学的には、目で見た情報を元に自分の運動を調節するには、後頭部の下にある小脳という脳領域が関わっています。

例えば、机の上の物を手を伸ばして取るという状況を考えてみましょう。

最初は大雑把にその対象物の方向に手を伸ばします。

近付くと、自分の手と対象物の距離感をモニターして、逐次その情報からいろいろな筋肉を微調整して、結果的にピッタリと手が届くように調節します。

このとき、視覚情報から筋肉の収縮の微調整に関わる計算を小脳が担っています。

ですから、小脳が機能しない場合、机の上の物を取ろうとすると、対象物に近付くほど手が大きく震える、、そんなことになってしまいます。

 

他者視点で我が振り直せ

この、両腕を真横にあげる武井氏の話は、しばらく前に動画で見て知っていたのですが、今回、「オトナの学校」の動画で、そのルーツが分かりました。

先に武井氏の幼少期の家庭環境のことを書きましたが、小学生のとき、一緒には住んでいない父が、当時、発売され始めたビデオカメラを持って来たそうです。

そして、キャッチボールをしている様子をお父さんにビデオカメラで撮ってもらいます。

武井少年はプロ野球選手のフォームを真似して投げているいるつもりだったのですが、録画で確認すると、自分が思ったのとは全く違うフォームで驚いたのだとか。

「自分の体は思ったように動かせていない」

自分の体の動きは、外から見て修正しないとダメなことに気付いた瞬間だったのですね。

武井氏の父親は、子育てにほとんど関わっておらず、その意味では父親としての役割は果たしているとは言えないでしょう。

しかし、自分を知るには、外から見ないといけないことに気付かせてくれたという点で、とても大きな財産を与えくれたのですね。

この、自分の体は思ったように動かせていない話、スポーツに限ったことではありません。

プレゼンでも笑顔でも、なかなか思ったようには出来ていないもの。

録画するなり、鏡を見るなりして外から自分を見て修正する習慣を持つとよいですね。

 

他者視点とミラーニューロン

武井氏の動画「オトナの学校」には、もう一つのメッセージあります。

武井壮「オトナの学校」

それは、

「価値は、それを求める人の数」

であること。

武井氏は陸上だけをやっていたとき、日本チャンピオンになっても、年収100万円から200万円だったそうです。

スポーツを極めることの難しさと、たとえ極めても食べて行くことの難しさを実感した武井氏は次のような疑問をもちます。

「世の中で価値があるものとは何なのか?」

例えば、どんなに頑張って世界最高品質の何かを作っても、それを誰も知らなければ価値がない。

一方、世界で10番目くらいの物だけど、世界中で使われて、欲しい人もたくさんいたら、大きな経済的価値があると言える。

スポーツで稼げている例として、クリケットを取り上げます。

クリケットはサッカーに次いで世界の競技人口が多いスポーツ。

クリケット選手で稼いでいる人は、なんと、年収27億円!

日本人からするとマイナーなスポーツなのになぜ、そんなに収入があるのか。

それは、クリケットがインドの国民的スポーツだから。

なにせ、人口、12億人。広告の効果も絶大。

人が何を求めているのかを知らないといけないですし、求められるにはどうすればよいかを考える必要があるのです。

武井氏は、ジュニア教育のあるべき姿について語ります。

子どもの10年間をギャンブルで終わらせないために、
思った通りに動く体の使い方を教えてあげる。

自分ののスポーツがどんな経済価値・社会的価値を
持っているのかを2時間でも3時間でも研究した親がいるか?

自分の体の動かし方を知って、そのスポーツの価値を知って、
将来このスポーツでこんな立場に行けば、こんな社会的価値が
手に入るということを、もし大人が教えてあげられて、
子どもと共有できたら、それが本当のジュニア教育だと思う。

 

武井氏は、自分が成功したいと思っていただけのスポーツを捉え直して、人の価値や、商品の価値というのは、クオリティではなく、喜んでくれる人の数や必要としてくれる人の数だと気付きます。

武井氏は、今年8月、世界マスターズ陸上で、40~44歳の400mリレーで金メダルを獲得。

現役の選手よりタイムは悪いのに、試合の1時間後に日本のYahoo!ニュースに。

武井氏がスポーツを極める努力だけでなく、世の中を知って、人々を喜ばせる努力を続けて来た結果なのです。

武井氏は、どんなに忙しくても、毎日1時間はトレーニングで体を鍛え、1時間はニュースなどで知らないことを勉強する、その2時間を自分にプレゼントしているそうです。

1日、10分でも20分でも30分でも自分の持っていない知識とか能力を身に付けて、夢を叶えていく。

オトナが、そんな姿を、背中を見せることが本来のオトナと子どもの関係。

「大人になっても夢は叶う」ということを子どもに見せてあげられる大人になること。

それが「オトナの育て方」である、と武井氏は語ります。

 

武井氏は、

「自分を外から見て自分を知る」

ことの大切さを父親から学んだからこそ、他者の視点を意識することができて、

「自分を外から見てくれる人の気持ちになる」

こと大切さに気付けたのだと思います。

ところで、ヒトを含む霊長類の脳には、ミラーニューロンという神経細胞があることが知られています。

このミラーニューロンは、自分がする動作でも他者の動作でも活動して、他者を映す鏡(ミラー)のようなので、そう呼ばれています。

ヒトの脳は、とかくエゴセントリック、つまり、自己中心的に考えがちです。

しかし、他者の気持ちもシミュレートできるのが、ヒトのヒトたる所以でもあります。

当事者として熱くなっていても、それを他者の視点で見直すことで、自分を俯瞰して捉え、一歩引いて冷静に考えられたりもしますね。

マーケティングだけでなく、職業選択や夢を叶えためにも大切な他者視点は大切なのです。

まさに、世阿弥のいう「離見の見」。

学術的にちゃんと見付かっているミラーニューロンは動作に関するものだけ。

ですが、他者の意図や気持ちを映すニューロンやニューロンのネットワークもきっとあるはずです。

自分を外から見る他者視点を持てる「幽体離脱」を常に意識するようにしたいものです。

 

脳科学でビジネスライフを快適に!

では、また!

 

(了)

 

||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

 

武永隆の脳ブログ「類人猿分類でコミュニケーションをステップアップ」

武永隆の脳ブログ「対人関係改善に、岡田斗司夫の4タイプ分類」

武永隆の脳ブログ「脳と腰痛の意外な関係」

武永隆の脳ブログ「フェデラーに学ぶ雰囲気作り」

武永隆の脳ブログ「イルカは音を「見て」いる」

武永隆の脳ブログ「計画倒れは自分と向き合うことで解決!」

武永隆の脳ブログ「お肉とウォーキングで、すっきり気分!」

武永隆の脳ブログ「笑顔は信頼の証しでもある」

武永隆の脳ブログ「危機的状況はスローモーション?」

 

無料メルマガ 武永隆の【1分脳コラム】
ご登録はこちら ↓↓↓↓↓
https://i-magazine.jp/bm/p/f/tf.php?id=businesscom

 

ブログランキングに参加しています!
にほんブログ村 科学ブログ 脳科学へ
にほんブログ村

PVアクセスランキング にほんブログ村

脳科学 ブログランキングへ