背外側前頭前野(DLPFC)とは
前頭前野という脳領域のことをお聞きになったことはあるかと思います。
脳の表面を大脳皮質といって、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉の4つに分けられます。
前頭葉は、その名の通り脳の前側の領域です。
「後頭葉は、視覚に関わる」
「側頭葉は、聴覚に関わる」
「前頭葉は、思考に関わる」
とも聞きますよね。
どれもウソではありませんが、特に、前頭葉については注意が必要です。
例えば、手足を動かすことに関わる運動野はどこにあるでしょうか。
前頭葉は、思考に関わるから違うので、、頭頂葉?
とか考えてしまうかもしれませんが、実は、運動野は前頭葉にあります。
前頭葉の一番後ろ側で、主に女性が髪を押さえるのに使うカチューシャみたいな帯状の領域として、手足を動かす指令を出す運動野があります。
「 前頭葉 = 思考 」 と短絡的に覚えないようにしましょう。
思考に関わるのは、前頭葉の中でも運動野より前にある前頭前野です。
その前頭前野もいくつかの領域に分けられ、頭の横側、こめかみの上辺りの脳領域を背外側前頭前野(DLPFC、DorsoLateral PreFrontal Cortex)と言います。
短期記憶やワーキングメモリに関わると考えられていて、脳トレではこのDLPFCの活性化を目的とするものが多いようです。
個々の脳領域は使うほど広くなる
脳を鍛えると、それに関わる脳領域が広くなります。
例えば、ピアニストの手に関わる脳領域は広いことが実験で分かっています。
なので、DLPFCをよく使ってきた人は、DLPFCが広くなっている、かと思われます。
かなり雑な表現ですが、DLPFCを鍛えたら頭の回転がそこそこ速くなると言っても、そうおかしくはないでしょう。
ここでちょっと注意が必要なのですが、脳の活動を調べたときに強く活動しているほど「活性化」していてよいことだけど、活動が弱いと「活性化」していなくてダメだ、と単純に捉えてはいけません。
脳の活動が強くなっているのは、何とかしようと頑張っている姿です。
慣れてくると効率的に情報処理できて、脳の活動自体は弱くなっていきます。
何度も同じことを練習して、それに関係する脳領域が広くなるのは、対応するレパートリーを増やしていることと関係していると考えられます。
多重課題は前頭前野が小さめの方に効果的だった(実験)
DLPFCを鍛えるため、多重課題(マルチタスク)を課す方法がよく取られます。
多重課題というのは、2つ以上の課題を同時にこなす課題で、例えば、車の運転のドライブシミュレータで運転しながら、画面上に特定のマークが現れたらボタンを押すといったようなものです。
最近、多重課題とDLPFCの関係を調べたオーストラリアの研究グループが論文を発表しました。
結果から申し上げますと、多重課題のトレーニングをすると、DLPFCが小さい人ほどトレーニングの効果が出たというのです。
実験には、20代を中心として100名が参加。
その半分の50名(グループ1)には、画面を見る視覚課題と、音を聞く聴覚課題を同時にこなす多重課題に、そして、残りの50名(グループ2)には、視覚課題だけに取り組んでもらいました。
トレーニング期間は1週間で、スケジュールは以下の通り。
月曜:多重課題の予備練習(答え合わせあり、MRI撮影)
火曜:多重課題の予備練習(答え合わせなし)
水曜ー木曜:多重課題(もしくは視覚課題)の本格的なトレーニング
金曜:多重課題の事後練習(答え合わせなし、MRI撮影)
本格的なトレーニングで多重課題に取り組んだグループ1は、そうでないグループ2に比べて、金曜の多重課題で成績がよりアップしていました。
トレーニングの効果が出ていますね。
成績だけでなく、脳の構造も調べています。
このメルマガでもよく出てくるfMRI(機能的MRI)は脳内の血流を調べて、活動性の高い脳領域を探すために使います。
今回の論文で使われたのはそのfMRIではなく、MRIで、脳の構造だけを調べます。
そして、グループ1の50名について、成績の上がり方と、DLPFCの大きさの関係を調べました。
すると、DLPFCが小さい人ほど、多重課題の成績がアップしていたのです。
本格的なトレーニングで多重課題に取り組まなかったグループ2では、DLPFCの大きさと成績の伸びとの間に関係は見られなかったとか。
実験の結果は分かったけど、DLPFCが小さめって、どうやったら分かるの?
MRIで調べるなんて簡単にはできませんよね。
DLPFCは短期記憶やワーキングメモリに関わっていることは分かっていて、それらはいろいろな作業を効率的に進めるには必要な能力です。
いろいろテキパキこなせないなあと思ったら、もしかしたら、DLPFCが小さめなのかもしれません。
鍛えたら機能が改善される伸びしろがある、ということなのですから、あきらめずに頑張りましょう。
【原論文】
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では、また!
(了)
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