神経回路を切替えて機能代償していた実験的証拠

投稿者: | 2016年4月16日

 

脳卒中による麻痺とリハビリによる回復

脳出血や脳梗塞などの脳卒中が起こると手足が動かなくなることがあります。

手足が動くのは、脳の運動野と呼ばれる領域のニューロンが手足の筋肉に「動け!」という指令を送るからですね。

なので、脳出血などによって、それらのニューロンが死滅すると、手足を動かす指令が出せなくなり、その結果、手足が動かなくなります。

このような麻痺で手足が動かなくなっても、懸命なリハビリを通してある程度動くようになる場合があります。

死滅したニューロンは再生しませんので、他の脳領域のニューロンが指令を送るのを肩代わりすると考えられています。

この機能代償は、リハビリという外からの働きかけがあるにせよ、脳が自発的に行っていることで、脳の素晴らしい機能の一つと言えます。

他の脳領域が機能代償しているのは、脳機能イメージングなどで実際に確認することができます。

その機能代償の裏で起きていること。

それは、神経回路の切り替え。

神経回路の切り替えを調べるには、各脳領域をつなぐ回路を特定する必要があります。

これまで特定の神経回路をちゃんと調べることは不可能とされてきました。

しかし、それができるようになったというのが前回書いた「ウイルスベクター二重感染法」でしたね。

武永隆の脳ブログ(2016/03/14)
「ウイルスベクター二重感染法で特定の脳回路を遮断」

 

まずは、近くの脳領域が機能代償していることの確認

この方法を使って、リハビリの過程でどんな回路の切り替えが起きているかを明らかにした最近の研究を紹介しましょう。

脳の運動野から手足に情報を送る神経線維は脊髄で別のニューロンに情報のバトンタッチをしますが、いくつかの経路があります。

まず、大脳皮質の運動野から、直接、脊髄に情報を送る長い神経線維の経路で「皮質脊髄路」と言います。

近道で、進化的に新しい経路とされます。

それから、ちょっと寄り道をする経路もありまして、大脳皮質の運動野から、一旦、中脳の赤核(せきかく)という脳領域で情報のバトンタッチをしてから脊髄に情報を送る経路で「皮質赤核路」と言います。

遠回りの進化的に古い経路です。

脳出血は、脳の深いところにある内包という神経線維がたくさん通っている場所でよく起こります。

上記の皮質脊髄路や皮質赤核路もこの内包を通ります。

ですから、内包で脳出血が起ると、手足が麻痺しやすいのですね。

内包(見づらいですが、、)

実験では、マウスの脳の片半球の内包にコラゲナーゼというコラーゲンを分解する酵素を注入して意図的に脳出血させて前肢(まえあし)に片麻痺を起こさせます。

そして、麻痺した前肢を使わせるリハビリで機能代償の様子を調べました。

すると、リハビリで機能回復したマウスでは、脳出血以前には活動していなかった近くの脳領域が活動しているのが確認されました。

麻痺で死滅したニューロンの活動を近くのニューロンが肩代わりしたのですね。

ここまでは想定内の確認事項です。

 

リハビリで進化的に古い回路を活用していることが判明

では、神経回路はどう切り替わったのでしょうか?

新たに活動し始めた前肢の脳領域にあるニューロンがどこに神経線維を送っているかを調べるため、その脳領域に順行性のトレーサーを注入したところ、中脳の赤核にたくさん届いていることが分かりました。

そして、リハビリで前肢が動くようになったマウスに前回の「ウイルスベクター二重感染法」で皮質赤核路を一時的に遮断すると、また前肢が麻痺し、しばらくしてその遮断効果が薄れると回復しました。

つまり、リハビリで、進化的に古いとされて、情報の経路としては遠回りの皮質赤核路を活用することで前肢を動かせるようになっていた、ということが分かったのでした。

皮質赤核路

生理研のプレスリリースより

 

あれ? 皮質赤核路も内包を通っているなら内包の脳出血で皮質脊髄路と同様にダメージを受けていて活用することなどできないんじゃないの?

なるほど。なかなか鋭い指摘です。

実は、内包には前方の前脚と、後方の後脚があります。

前脚:視床と前頭葉を結ぶ

後脚:前頭葉の運動野・側頭葉・頭頂葉・後頭葉と脳幹を結ぶ

そして、問題の皮質赤核路は後脚の外側、つまり、内包の端っこにあって、内包で脳出血が起きても比較的影響を受けにくいのですね。

実際、麻痺が軽かったり、リハビリの回復が良かったりするのは、内包前脚の脳出血であることが多いようです。

リハビリで遠回りな神経回路を使って機能代償していたという実験的証拠が報告されたというお話でした。

 

【原論文】

Ishida A, et al. (2016)
“Causal Link between the Cortico-Rubral Pathway and Functional Recovery through Forced Impaired Limb Use in Rats with Stroke.”
J Neurosci 36(2): 455-67.
doi: 10.1523/JNEUROSCI.2399-15.2016.

 

脳科学でビジネスライフを快適に!

では、また!

 

(了)

 

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